労働審判とは~その特徴(メリット・デメリット)をご説明します~

当ホームページの「労働事件」のページには、↓の「労働事件の解決までのイメージ」図を掲載しています。

この「労働事件の解決までのイメージ」図の中に「労働審判」という選択肢が登場します。
ここでは、「労働審判」とは何か、メリットデメリットを含めその特徴をご説明します。

【労働審判制度の特徴を③つに絞れば次のようになります】

① 「調停」「審判」という柔軟な紛争解決

「裁判官」ではない「労働審判員」も審理に加わわります。
「労働審判員」は、労働者側代表(労働組合の役員など)1名と使用者側代表(会社経営者など)1名の計2名からなります。
この「労働審判委員」に加え、本職の裁判官1名が「労働審判官」を務めます。
この3名で組織される労働審判委員会が審理を行います。
裁判官以外の労働審判員が関与することによって適切かつ柔軟な解決を図ろうする趣旨です。

労働審判では、「調停」(話し合いによる紛争解決)の成立による解決の見込みがある場合には「調停」を試みます。
話し合いによって、どのような紛争を解決するのですから、当然柔軟な解決が可能です。
話し合いには、労使双方が一定程度の譲歩が必要になります。
「調停」(話し合いによる紛争解決)の成立しなかったとしても、
「労働審判」(通常訴訟における判決に相当するもの)においては、労使間の権利関係をふまえて事案の実情に即した判断をすることがでます。
なお、2014(平成26)年の司法統計では、労働審判手続の終了理由の第1位は「調停成立」で、その割合は全体の67.9%です。
これに対して、通常の民事裁判(労働関係訴訟)では、「和解」は53.7%です。

話し合いによる紛争解決割合が、労働審判の方が約3割も高いのです。

 

② 原則として3回以内に終結

労働審判制度では、迅速かつ適正な労使紛争の解決が重視されています。
そのため、
「速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。」(法15条1項)
「特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日において、審理を終結しなければならない。」(法15条2項)
と規定されています。

原則、3回以内で終結しなければならないわけですから、
平均審理期間もその分短くなります。
※平均審理期間とは、裁判所が事件を受理日したから終局日までの平均期間のことです。
2014(平成26)年の司法統計によれば、労働審判の平均審理期間は、79.5日でした。

これに対して、2014(平成26)年の司法統計によれば、
通常の民事裁判(過払い金等請求は除く)の第1審平均審理期間は、9.2か月でした。
通常の民事裁判(労働関係訴訟)については、14.3か月(=1年2.3か月)でした。

労働審判と通常の民事裁判では単位が異なります。
労働審判は「日」で、通常の民事裁判は「年」です。

 

③ 印紙代も弁護士報酬も安くなる

裁判をおこすには、裁判所に対して、請求額に応じた手数料を収入印紙で納めなければなりません。
たとえば、300万円の残業代請求をする場合、20,000円の収入印紙を納めなければなりません。
これに対し、労働審判の場合は、この印紙代が半額になります(請求額が1000万円以下になると半額を下回ります。)。
300万円の残業代請求をする場合、10,000円の収入印紙で済みます。

また、弁護士報酬(着手金)についても、当事務所では、労働審判の場合は通常訴訟に比べて格段に安くお引き受けしています「標準報酬表」参照)。
たとえば、通常訴訟で300万円の残業代請求をする場合、着手金は24万円+税となります(成功報酬は別)。
これに対し、労働審判で300万円の残業代請求をする場合、着手金は10万円+税となります(成功報酬は別)。
このように報酬も約半額になるのは、労働審判の場合、短期決戦であり、立証などの点でも弁護士の負担が軽くなるからです。

【デメリット??】

A 異議が申し立てられれば通常訴訟に移行

デメリットというより手段選択の際に考慮しなければならないことです。
「調停」が成立せず「労働審判」が出た場合、不服のある当事者は異議を申し立てることができます。
「異議」が申し立てられると、労働審判は通常訴訟に移行します。
そうすると、労働審判を選択した方が余計に時間がかかるではないかと思われるかもしれません。
しかし、司法統計には現れていませんが、労働審判から通常訴訟に以降した事件では、
労働審判で争点の整理や当事者の主張立証の多くの部分が終わっていますので、
はじめから通常訴訟をするよりも早く終わる傾向にあります。

 

B 労働審判に適さない事件もある

これもデメリットというわけではありませんが、労働審判の適さない労働事件もあります。
一言でいえば、複雑な事件が労働審判には適しません。

労働審判法でも「労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。」(24条1項)
とされています。

少し具体化しますと、法解釈が難しい事案、客観証拠が少ない事案、争点が多い事案などでしょう。
どのような事件が労働審判に適するか適さないかは個別具体的な事情による部分もあります。
たとえば、労働審判では通常訴訟のような厳密な事実認定を行わないので、客観証拠が少ない事案は基本的には適さないですが、
証拠自体が少なく、通常訴訟を行っても、厳密な事実認定をされると勝訴の可能性が低くなるような事案では、
厳密な事実認定をせずに「調停」ができる労働審判が適する場合もあるのです。

労働審判に適する事件と判断すれば、弁護士から労働審判を利用するようご提案いたします。

 

C 労働者本人も出席する

これもデメリットというより、注意点です。
通常の民事裁判では、弁護士がつく場合、当事者本人は出席しないことが多いです。
しかし、労働審判の場合、労働者本人が出席し、裁判官や労働審判員の質問などに回答していきます。
会社側は社長や上司など当該労働問題についてよく知っている人が出席するのが通常です。
先ほど①②で述べましたように短期間に柔軟な解決を図るためです。

もっとも、労働事件の場合、労働者本人から毎回裁判に出席したいと言われる場合が多いです。
私も労働者自身の問題ですから、可能な限り出席した方がよいと考えています。
(労働事件以外の民事事件では弁護士任せにして欠席してもよいと思います。)

 

【どのような場合に労働審判を利用すればよいか??】

以上の【③つの特徴】【デメリット??】をまとめると、労働審判とは、
「複雑なではない労働事件について、通常裁判よりも費用と時間を抑え、基本は話し合いによる解決を目指す裁判制度。」
ということができるでしょう。

そのため、労働審判を選択するかどうかは、まずは、
裁判期間、裁判費用、労使の譲歩の可能性、事案の複雑さなどから考えるといいでしょう。

弁護士 中井雅人

裁判所 労働審判手続

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