労働者の権利 年次有給休暇を行使しましょう

かつては「年休」と略されたようですが、今は「有給」と略されることが多いでしょう。
法律上の正式名称は、「年次有給休暇」(労働基準法39条)といいます。
労働者の権利である「年次有給休暇」行使できていますか?
今回はこの「年次有給休暇」の行使についてご説明します。
☆過労による労災(精神疾患)防止の観点からも、有給休暇の行使は重要です。

「年次有給休暇」の発生要件と消滅要件については↓をご覧ください

労働者の権利 年次有給休暇の発生要件 消滅要件

【年次有給休暇の時季指定権】

労働基準法39条5項本文では「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。」と規定されています。
ここでは「請求」という語を用いられていますが、年次有給休暇の権利は、
①39条1項・2項の要件が充足されることによって法律上当然に労働者に生ずる権利です。
つまり、労働者の請求を待って始めて生ずるものではありません。
②39条5項にいう「請求」とは、休暇の時季にのみかかる文言であって、その趣旨は、休暇の時季の「指定」にほかならないものと解されています。労働基準法39条5項本文は、見出しで書きましたように年次有給休暇の労働者による「時季指定権」を規定した条文だということです。
つまり、労働者は年次有給休暇取得の「時季」を指定できる権利を有しているということです。

ここで「時季」とは何か?という疑問が出てくると思います。聞きなれない言葉だと思います。
「時季」とは「具体的時期」と「季節」の双方を含むものです。
つまり、
①労働者が最初から年次有給休暇の「具体的時期」を指定するというパターン
②労働者が年次有給休暇を取得したい「季節」をまず指定したうえ使用者との調整により「具体的時期」の決定にいたるというパターン
があるということです。

【年次有給休暇の時季変更権】

先に述べました労働者による時季指定権の行使に対し、使用者は一定の要件み充たせば時季変更権を行使することができます。
使用者が、時季変更権を適法に行使するための要件は、労働者の指定した時期に年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる」ことです(労基法39条5項ただし書)。
労基法39条の趣旨は、できる限り労働者が指定する時季の休暇を取得することができるようにするところにあります。
そうすると、「事業の正常な運営を妨げる」かどうかは、
①業務上の支障の存在(業務遂行のための必要人員を欠くなど)だけでなく、
②使用者の配慮の有無・程度を考慮して、
客観的に判断されます。

長期年休の場合は、労働者が事前調整を経ずに、時季指定したときは、①の存否判断について使用者側に裁量が生じます。労働者が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合においては、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常だからです。
よって、事前の調整を経ていない場合には、
①使用者の業務上の支障の判断が不合理でない(裁量の範囲を逸脱していない)、かつ、
②使用者が年休取得のために相当の配慮を行っている限り、
時季変更権の行使が適法となります。
(時事通信社事件 最高裁H4.6.23参照)

【年次有給休暇自由利用の原則】

このように有給休暇の時季指定の効果(有給で有給義務が消滅)は、使用者による適法な時季変更権の行使(39条4項ただし書)がない限り発生します。
有給休暇の成立要件として、労働者による有給休暇の「請求」や、これに対する使用者の「承認」は不要ということです。
このような労基法の規定のされ方からすると、年次有給休暇自由利用が原則なのです。
(林野庁白石営林署事件 最高裁S48.3.2民集27.2.191参照)

【退職予定の方】へ

退職予定なのに、今まで有給休暇をほとんど行使したことがない、有給休暇がいっぱいたまっている、という状態ではありませんか?
労働者が取得せずにためていた有給休暇を退職直前にまとめて取得しようとした場合でも、使用者は有給休暇の行使を拒否でないとされています。
先に述べましたように、使用者は時季変更権を行使できるのですが、労働者が退職直前の期間をまとめて有給休暇の日として指定した場合には、使用者は退職後に有給休暇を与えるわけにはいきませんので、「他の時季に有給休暇を与える」ことができないからです。
したがって、退職前に取得せずにためていた有給休暇がある場合には、退職直前でも労働者の権利である有給休暇を取得するべきです。
もちろん労使間でできる限りの調整を図ることは必須ですが、調整を図っても、使用者がまったく有給休暇を取得させようとしない場合は、労働組合や弁護士を交えた交渉をしてみるのも良いでしょう。
(当事務所が顧問をしているひとりでも入ることができる労働組合を紹介することも可能です)

弁護士 中井雅人