勾留に対する準抗告など~刑事身体拘束からの早期解放をめざす~

1 身体拘束手続の流れ
 おおざっぱな流れは↓のとおりです。
 逮捕(48時間以内に検察官送致)
 ↓
 勾留(検察官送致から48時間以内に勾留請求)
 ↓(10日間)
 勾留延長
 ↓(最大10日間)
 終局処分(起訴または不起訴)

2 裁判官による司法審査
 ⑴ 勾留の要件
  ア 犯罪の嫌疑(罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由 刑訴法60条1項)
  イ 勾留の理由(次のうち少なくとも1つにあたること 刑訴法60条1項)
   ① 住居不定
   ② 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由
   ③ 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由
  ウ 勾留の必要性(被疑者を勾留する実質的な必要性が認められること 87条1項)

 ⑵ 絶対に行わなければならない司法審査
 ↑の流れの様々な場面で裁判官による司法審査が入ります。
 逮捕・勾留・勾留延長の令状を出すのは裁判官であり、弁護人等が求めなくても、これらについては必ず司法審査が入ります。
 最近、検察官からの勾留請求に対して、裁判官が却下するということが増え始めていますが、
 それでも、まだまだ、この絶対に行わなければならない司法審査が万全だとはいえません。
 
 ⑶ 弁護人等の申立による司法審査
 弁護人等が求めることによって、はじめて司法審査が入る場合もあります。
 勾留に対する準抗告、勾留延長に対する準抗告、勾留取消請求などがあります。
 要は、裁判官が出した勾留決定や勾留延長決定はおかしいから取り消してください、と裁判所に再考を求める異議申立ができるということです。
 
 裁判所の司法統計によると、
 1995年は、準抗告申立件数が 1598件であったのに対し、認容数は 292件でした(約18%)。
 2015年は、準抗告申立件数が10323件であったのに対し、認容数は2018件でした(約19%)。
 この統計の「準抗告」には検察官からの準抗告も含まれていますので、弁護人による準抗告が通る確率はもっと下がるでしょう。
 しかも、この統計の「準抗告」には、勾留以外のことに対する準抗告(たとえば接見禁止など)も含まれていますので、勾留に対する準抗告の認容率はもっと低くなると思われます。

3 できるだけ準抗告などをすべきと考えます
 ↑のように準抗告を認めさせるのは簡単ではありません。
 しかし、勾留や勾留延長に対する準抗告等は、
 ほとんど可能性がない場合(↑アイウの勾留の要件を充足しないと言えない)を除き、原則、行うべきだと考えます。

○ 身体拘束は、もっとも重大な人権制約であり、例外的な措置であるべき。
 これは、実際に犯罪を犯しているかどうかとは関係ありません。
 もちろん刑罰は必要ですが、「勾留」は刑罰ではありません。

○ 人質司法とも言われているように、被疑者段階、被告人段階で捜査機関の管理下に置かれれは防御権を十分に発揮できないおそれがある。
 捜査機関に都合のよい調書を作成されてしまう、黙秘権を十分行使できない等、考えられます。

○ 先人たちが築き上げてきた準抗告等の制度を錆びつかせてはならない。
 たとえば入管法(オーバーステイの外国人などが適用を受ける)には、先に述べてきました司法審査は一切ありません。
 それにも関わらず、入国管理局は、外国人を長期間身体拘束することができるのです。
 逮捕勾留に関する現行の刑事訴訟法は戦後できた法律です。
 前記統計以前の昔は、もっと準抗告の認容率が低かったそうです。
 制度があっても使えない、制度があっても形骸化しているのでは意味がありません。
 市民・弁護人の努力で使える制度にしておかなければならないのです。

 弁護士 中井 雅人