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賃金の切り下げなど労働条件不利益変更への対処(労使集団関係編)

 労働条件の中でも特に重要なのが「賃金」ですので、
 「賃金」を中心に、労働条件の不利益変更が無効となる場合や、その対処例をご紹介します。
 今回は(労使集団関係編)です。(労使個別関係編)は↓をご参照ください。
 http://www.ak-osaka.org/%E5%8A%B4%E5%83%8D%E5%95%8F%E9%A1%8C/426/

1 就業規則による労働条件の変更
  使用者が一方的に就業規則を変更して、労働者の不利益に労働条件を変更することはできないのが原則です(労契法9)。
  もっとも、使用者が、就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、次のことが必要です(労契法10)。

 ⑴ 要件
 ①変更の合理性
  ○ 労働者の受ける不利益の程度
  ○ 労働条件の変更の必要性
  ○ 変更後の就業規則の内容の相当性
  ○ 労働組合等との交渉の状況
 ②労働者に変更後の就業規則を周知させること。

 なお、就業規則の作成や変更にあたっては、事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません(労基法90条1項)。また、就業規則を作成・変更した場合は、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(労基法89条1項)。

 ⑵ 判例

「本件就業規則等変更を行う経営上の高度の必要性が認められるとはいっても、賃金体系の変更は、中堅層の労働条件の改善をする代わり五五歳以降の賃金水準を大幅に引き下げたものであって、差し迫った必要性に基づく総賃金コストの大幅な削減を図ったものなどではなく、右のような場合に当たらないことは明らかである。…専任職制度の導入に伴う本件就業規則等変更は、それによる賃金に対する影響の面からみれば、上告人らのような高年層の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであって、他の諸事情を勘案しても、変更に同意しない上告人らに対しこれを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない。したがって、本件就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は、上告人らにその効力を及ぼすことができないというべきである。」(みちのく銀行事件 最高裁判平12.9.7)

「その労働条件が実質的に不利益に変更されるとしても、右変更は、当時六〇歳定年制の実現が社会的にも強く要請されている一方、定年延長に伴う賃金水準等の見直しの必要性も高いという状況の中で、行員の約九〇パーセントで組織されている労働組合からの提案を受け、交渉、合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであり、従前の五五歳以降の労働条件は既得の権利とまではいえず、変更後の就業規則に基づく賃金水準は他行や社会一般の水準と比較してかなり高いなど判示の事情の下では、右就業規則の変更は、不利益緩和のための経過措置がなくても、合理的な内容のものであると認めることがでないものでなく、右変更の一年半後に五五歳を迎える男子行員に対しても効力を生ずる。」(判決要旨)とした。第四銀行事件 最高裁平9.2.28)

2 労働協約による労働条件の変更
 ⑴ 労働協約締結による労働条件切り下げには限界がある
  ア 原則
    労働条件の不利益変更も、労働組合の労働協約締結権限の範囲内。
  イ 例外(切り下げの限界)
    ①組合員個人の権利性の強いものを処分する場合
    ②労働組合の本来の目的を逸脱して協約を締結する場合
    ③労働組合の民主的手続を踏まないで協約を締結する場合(労組法5条2項参照)

 ⑵ 非組合員への効力
  ア 原則(労働組合法16条)
    労働協約の規範的効力は、協約締結組合の組合員にのみ及ぶのが原則。
  イ 例外(労働組組合法17条)
    「一の事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったとき」
    →「当該事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用される」
    =労働協約締結組合の組合員以外の労働者にも当該労働協約が拡張適用される。

   ①例外の例外(一切の労働組合に加入していない労働者)
   「労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできない」(朝日火災海上保険(髙田)事件 最高裁平成8年3月26日判決)

   ②例外の例外(少数派労働組合の組合員)
    最高裁判決ありませんが、団結権(憲法28条)の観点から、少数派労働組合の組合員への拡張適用はないと考えるべきです。

3 法的に無効な賃金切り下げなど労働条件不利益変更に対する対処
  賃金減額が無効ということは、賃金の一部不払いがあるということです。
  当然、労働者は、交渉・裁判を通して不払い賃金の請求をすることができます。

弁護士 中井雅人

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