残業代を支払わない言い訳 「年俸制」

1 年俸制とは単なる賃金制度
年俸制とはそれ自体は、法的には、広く1年を単位として労働の対価を決定する賃金制度です。
多くの労働者は月単位で決定されている賃金の額が、賃金の額を年単位で決定されているにすぎません。
そのため、年俸制という賃金制度そのものに時間外労働の割増賃金(残業代)の支払をを免れさせる効果はありません。
年俸制だからといって割増賃金(残業代)請求できないということはありません。

※管理監督者(労基法41条2号)、裁量労働時間制、みなし労働時間制(労基法38条の2)などの要件を充たしている場合は一部の割増賃金(残業代)支払義務を免れますが、これは年俸制という賃金制度とは別の問題です。

2 賞与
年俸制が導入されている企業では賞与が支給されることが多いです。
年俸額の16分の1を毎月支給し、年二回の賞与で残りの16分の4を支給するという会社が多いでしょう。
この16分の1の月額支給額を割増賃金(残業代)を算定する際の基礎賃金としている会社、または裁判等でそのように主張してくる会社も少なくありません。
しかし、結論から言えば、多くの場合、年俸額の16分の1を基礎賃金とするのは違法で、12分の1を基礎賃金とするのが適法です。

割増賃金(残業代)の算定基礎賃金は、「通常の労働時間または労働日の賃金」(労基法第37条第1項)ですが、
通常の労働時間または労働日の賃金でも、①家族手当②通勤手当③別居手当④子女教育手当⑤住宅手当と、通常の労働時間または労働日以外の賃金で⑥臨時に支払われた賃金⑦1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金は、計算基礎から除外されます。
(同条第4項及び労基法施行規則第21条)

賞与は、⑦「1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当しそうですが、
行政通達で、

「賞与とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とみなさないこと」(昭22.9.13基発第17号)

とされています。
また、同じく行政通達で、年俸制の17分の1を月額給与として、17分の5を2分して6月と12月に支給していた事案について、

「賞与として支払われている賃金は、労基法施行規則第21条4号の『臨時に支払われた賃金』及び同条5号の『1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金』のいずれにも該当しないものであるから、割増賃金の算定基礎から除外できない。」(平12.3.8基収第78号)

ともされています。

当該年度の年俸額が確定していて、その一部を賞与月(6月や12月)に多く配分するにすぎない場合は、ここにいう賞与には該当せず、基礎賃金からは除外されません。
=16分の1が違法
一方、年俸制で賞与に成果を反映させる調整型年俸制の場合には、算定基礎賃金に当該賞与は、算定基礎賃金から除外されないことになります。
=16分の1が適法

たとえば、年俸額が720万円で、毎月の支給額がその年俸の16分の1の45万円、夏の賞与が16分の2の90万円、冬の賞与が16分の2の90万円と予め確定している場合、毎月の支給額45万円を算定基礎とすることは違法です。
年俸720万円の12分の1、60万円を算定基礎としなければなりません。

3 裁判例

「被告はそれらが賞与であり 労働基準法37条1項及び3項の割増賃金の基礎となる賃金には算入されないと主張するが…年俸制給与の支払形態は,年俸額の15分の1を毎月支給し 15分の1.5を7月と12月に支給するとされ,7月と12月に付加して支払われる金員についても,支給時期及び支給金額が予め確定しており賞与又は賞与に準ずる性格を有するとは認め難く,毎月支給される金員と性質は異ならないと考えられるのであるから,労働基準法施行規則21条4号にいう「臨時に支払われた賃金」又は同条5号にいう「一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するとはいえず,前記割増賃金の基礎となる賃金に算入すべきである。」(大阪地裁H14.10.25)

「年俸制を採用することによって,直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくともよいということにはならないし,そもそも使用者と労働者との間に,基本給に時間外割増賃金等を含むとの合意があり,使用者が本来の基本給部分と時間外割増賃金等とを特に区別することなくこれらを一体として支払っていても,労働基準法37条の趣旨は,割増賃金の支払を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにあるから,基本給に含まれる割増賃金部分が結果において法定の額を下回らない場合においては,これを同法に違反するとまでいうことはできないが,割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は,同法同条に違反するものとして,無効と解するのが相当である。」(大阪地裁H14.5.17 同高裁H14.11.26)

弁護士 中井雅人