残業代請求訴訟(国際自動車事件) 最高裁平成29年2月28日判決

1 勝ち負けを判断していない判決
 2017(平成29)年年2月28日に、国際自動車というタクシー会社に対する残業代請求訴訟について最高裁判決がありました。
 私が昨年(2015年)に在籍していた暁法律事務所(東京)の所長指宿昭一弁護士が労働者側主任弁護士を務めていた事件です。
 指宿弁護士の本判決に対する評価は↓のとおりです。
 https://www.ak-law.org/news/2077/

 ↑で指宿弁護士も述べていますが、
 日経新聞が「歩合給から残業代差し引く賃金規則は「有効」 最高裁判決 」と見出しをつけて報道しているのは誤報だと思います。
 (2017年3月1日16時最終確認)

 たしかに、この判決は専門的な知識がなければ読解困難だと思いますが、
 最高裁判決の最後の部分は、専門知識がなくてもある程度理解できると思います。

労働者らに「支払われるべき未払賃金の有無及び等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。」

 と述べています。
 「歩合給から残業代差し引く賃金規則」が「有効」だと言っていないことは明らかでしょう。
 最高裁は、
 労働者らが勝利した原審(東京地裁東京高裁)判決は最高裁的にはちょっと考え方が間違ってるから、
 最高裁的に正しい考え方をを示すからそれを前提にして、
 未払い賃金(未払い残業代)があったかなかったかなどを
 もう1度、東京高等裁判所で決着つけてきてください、
 と言っているのです。

2 原審(東京地裁東京高裁)はなぜ勝利したか
 国際自動車の賃金規則の給料計算の式を簡略化すると、
 基本給+歩合給+「割増金」=給料
 になります。

 そして、歩合給計算式も簡略化すると、
 歩合給=(揚高-控除額)×歩率-「割増金」←この「-割増金」が問題になっています。
 になります。

 このふたつを合わせると、
 基本給+{(揚高-控除額)×歩率-「割増金」}+「割増金」=給料
 になります。
 すなわち、給与総額に割増金は反映されない、ということがわかりますね。
 割増金がいくらになっても給料の総額は変わらないですね。
 まったく割増賃金が支払われないのと同じということです。
 おかしいですよね。

 そこで、原審(東京地裁東京高裁)は、次のように賃金規則を無効としました。

「割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合を別にして,揚高が同じである限り,時間外等の労働をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は全く同じになるのであるから,本件規定は,法37条の規制を潜脱するものといわざるを得ない。そして,法37条は,強行法規であると解され,これに反する合意は当然に無効となる上,同条の規定に違反した者には,6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑事罰が科せられる(同法119条1号)ことからすれば,本件規定のうち,歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に見合う額を控除している部分は,法37条の趣旨に反し,ひいては公序良俗に反するものとして,民法90条により無効であるというべきである。」

3 最高裁的にはちょっと考え方間違ってるからの内容
 ⑴ 当然に公序良俗に反し無効とはいえない
   歩合給から割増賃金に相当する額を控除することを定めた賃金規則が、
   「当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできない」
   と述べています。
   わざわざ「当然に」と述べているわけですから、公序良俗に反し、無効となる可能性はあるということになります。

 ⑵ 労基法37条の問題にはなり得る
   まとめますと最高裁は、
  ①通常の労働時間の賃金部分と割増賃金(残業代)部分とが判別できなければならない。
  ②区別できていなくても労基法で決まっている残業代よりも少ない残業代を支払ってごまかしている場合は不足分を労働者に支払わなければならない。
  ③歩合給から割増賃金(割増賃金)に相当する額を控除するような割増賃金(残業代)が労基法が定める「割増賃金」(残業代)と評価できなければならない。
  と言っています。
  ①②③に反する賃金規則労基法37条に反し無効で、会社は労基法が定める割増賃金(残業代)を支払わなければならないということです。

4 最高裁第3小法廷平成29年2月28日判決の最高裁判断部分抜粋
 (太字は弁護士中井雅人による編集)

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)ア 労働基準法37条は,時間外,休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ,割増賃金の算定方法は,同条並びに政令及び厚生労働省令(以下,これらの規定を「労働基準法37条等」という。)に具体的に定められている。もっとも,同条は,労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり,使用者に対し,労働契約における割増賃金の定めを労働基準法37条等に定められた算定方法と同一のものとし,これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない。
そして,使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁平成21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁参照),上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。
他方において,労働基準法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると,労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に,当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできないというべきである。
イ しかるところ,原審は,本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労働基準法37条の趣旨に反し,公序良俗に反し無効であると判断するのみで,本件賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か,また,そのような判別をすることができる場合に,本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく,被上告人らの未払賃金の請求を一部認容すべきとしたものである。そうすると,原審の判断には,割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない。
(2) なお,原審は,本件規定のうち法内時間外労働や法定外休日労働に係る部分を含む割増金の控除部分全体が無効となるとしており,本件賃金規則における賃金の定めについて検討するに当たり,時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働に当たる部分とそれ以外の部分とを区別していない。しかし,労働基準法37条は,使用者に対し,法内時間外労働や法定外休日労働に対する割増賃金を支払う義務を課しておらず,使用者がこのような労働の対価として割増賃金を支払う義務を負うか否かは専ら労働契約の定めに委ねられているものと解されるから,被上告人らに割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断するに当たっては,被上告人らの時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働に当たる部分とそれ以外の部分とを区別する必要があるというべきである。
5 以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人らに支払われるべき未払賃金の有無及び等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充)

 弁護士 中井雅人