2021年2月10日大阪地裁にて運送会社の未払残業代の集団訴訟(27名・総額約6200万円)の和解が成立しました。
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弁護士ドットコムニュース 運送会社の「残業代未払い」、満額の計6200万円支払いで和解 判例も影響か
運送会社ヒガシトゥエンティワン(大阪市中央区)の運転職労働者ら29人が、会社側に対して未払い残業代を求めていた訴訟は2月10日、大阪地裁で和解が成立した。
会社側が解決金として、請求全額となる計約6200万円を支払う。
●「実質的な残業代ゼロ」?
同社の当時の給与規定では、残業によって時間外手当や深夜手当などが発生しても、売上に応じた歩合給に相当する「運行時間外手当」の金額を上回った分しか支給されないことになっていた。
こうした規定に「実質的な残業代ゼロ」だと異議を唱えたのは、会社で2番目に大きいヒガシトゥエンティワン労働組合の組合員たち。団体交渉が不調に終わったため、2019年10月に提訴した。
●国際自動車事件の判例との類似性
同社と似たような給与体系が争われた判例がある。タクシー運転手が「実質残業代ゼロ」になってしまうと訴えていた「国際自動車事件」だ。
残業代がゼロというのは、歩合給から残業代同等額が引かれていたからだ。
しかし、下級審の中には、法令違反などがない限り、賃金をどのように定めるかは自由としたうえで、名目上は法定の金額を下回らない残業代が出ていることなどから、制度を合法とした判断もあった。
これに対して、最高裁は2020年3月、国際自動車の制度では残業代が払われたことにはならないと判断した。名目だけでなく、賃金体系全体における位置付けなどにも留意すべきなどとしている。
今回のヒガシトゥエンティワン事件と国際自動車事件との関係について、組合側代理人の中井雅人弁護士は、次のように説明する。
「本件は、国際自動車事件のような控除型ではありませんが、実質的には同じことです。国際自動車判決をふまえた原告側主張を受けて、裁判官が原告側に有利な方向で和解勧試を始めてくれました。波及効果があったと思います」
組合側も、請求額が全額支払われ、口外禁止条項もつかなかった和解内容に満足している。
●別の裁判も起こす予定
なお、同社では、すでに時間に応じて残業代を計算する方式に変わっている。
ただし、組合側は従来の計算方法よりも給料が減ってしまうため、労働契約法が禁じる合意のない不利益変更などに当たるとして、提訴を検討している。
担当弁護士が考える本件和解の意義
100%の支払いであること
解決金(和解金)の額は、
原告労働者らが請求していた割増賃金(基本給部分の割増賃金+歩合給部分の割増賃金)の額と同じです。
口外禁止条項なし
原告労働者らは使用者に金銭を支払わせることだけを目的に裁判を起こしたわけではありません。
労働条件等の維持向上のための決断でした。
労働組合と会社の団体交渉での解決もあり得たはずです。
そうした経緯からすると、原告らにとって口外禁止条項は到底受け入れることができないものでした。
国際自動車事件最高裁判決のこれから
法の趣旨から実質的に見て残業代の支払いと評価できるかどうか
弁護士ドットコムニュース記事にもありますように、本件和解が比較的早期に成立した背景には、国際自動車事件最高裁判決の波及効果があります。
本件は歩合給に残業代が含まれているとする固定残業代が問題となりました。
形式的には国際自動車事件の控除型固定残業代とは異なります。
しかし、国際自動車事件第2次最判の核心は、その固定残業代が、①時間外労働等の抑制・②労働者への補償という労基法37条の法の趣旨から実質的に見て残業代支払いと評価できるかどうかをしっかり判断せよ、とした点にあります。
これは当然本件にも妥当し、とても有利に作用しました。
国際自動車事件と形式的にも類似
本件計算式を簡略化すると、
賃金=基本給+運行時間外手当(基本給部分および歩合給部分の割増賃金込み)+調整時間外手当
運行時間外手当=(月間運賃収入+月間作業収入-高速料金-車種別控除金額)×車種別適用率
→計算式は歩合給そのもの
調整時間外手当=(労基法が定める)割増賃金-運行時間外手当
※歩合給を上回る残業代が発生していれば歩合給を上回った額だけ残業代を支払うということ。
国際自動車事件最高裁判決を次につなげる
どんなに素晴らしい判決でも、後に続く人々が活かし育てなければならないと思います。
原告労働者らは見事にその役割を果たしたと思います。
提訴時の記事