残業代を支払わない言い訳 「裁量労働制」

1 「裁量労働制」でも残業代を支払わなければならない場合がある
  「裁量労働制」とは、一定の要件を充たせば、実際の労働時間数に関係なく、事前に決めた時間数労働したものと「みなす」制度です。
  ポイントは、

Ⓐ「一定の要件を充たせば」
Ⓑ「みなす」

  です。
 Ⓐ 「一定の要件」を充たさない「裁量労働制」は無効で、原則どおり残業代請求をすることができます。
 Ⓑ 事前に決められた「みなし労働時間」については1日8時間週40時間の原則が適用され、かつ、深夜・法定休日労働がある場合はそれについては「みなす」こととは関係なく残業代請求をすることができます。

2 裁量労働制の要件(Ⓐに対応)
 ⑴ 専門業務型裁量労働時間制(労基法38条の3)
  ア 当該労働者に「裁量」があること 一番重要!
    ①仕事の遂行方法についての「裁量」
    ②労働時間コントロールについての「裁量」
   の両方が必要。
  イ 労基則24条の2および大臣告示で定められた専門業務に従事
   専門19業務http://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/index.html
  ウ 過半数代表との間の労使協定(内容は一部抜粋)
   (ア)対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと。
   (イ)対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
   (ウ)対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。

 ⑵ 企画業務型裁量労働時間制(労基法38条の4)
  ア 当該労働者に「裁量」があること 一番重要!
    ①仕事の遂行方法についての「裁量」
    ②労働時間コントロールについての「裁量」
   の両方が必要。
  イ 対象事業所でなければならない(平成15年10月22日厚生労働省告示第353号)
  (ア)対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼす事項を行う事業所
  (イ)当該事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす独自の事業計画や営業計画を行う事業所
  ウ 労使委員会決議およ行政官庁への届出(内容は一部抜粋)
    使用者は、この項の規定により第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を対象業務に就かせたときは第三号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

3 「みなす」の意味(Ⓑに対応)
 ⑴ 「みなし時間」に対する残業代
   どれだけ働いても絶対に残業代が出ないものと「みなす」という意味ではありません。
   たとえば、「みなし時間」が1日9時間だとすれば、6時間しか働いていなくても、10時間働いていたとしても、9時間働いたと「みなす」わけです。
   9時間労働ということは、1日8時間労働の原則(労基法32条)を超過しているということです。
   そのため、この場合、1時間分の残業代(割増賃金)が発生します。

 ⑵ 「みなし時間」とは無関係に発生する残業代
   深夜・法定休日に対する残業代は、○○時間以上労働したことを要件に発生するものではありません。
   深夜に労働したこと、法定休日に労働したこと、が残業代の発生要件です。
   そのため、たとえば「みなし時間」が1日何時間であっても、深夜労働・法定休日労働は別途存在する場合、その分の残業代が「みなし時間」によって無くなることはありません。

4 裁判例(エーディーディー事件・京都地裁平成23年10月31日

(1) 専門業務型裁量労働制とは,業務の性質上その遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるものについて,実際に働いた時間ではなく,労使協定等で定められた時間によって労働時間を算定する制度である。その対象業務として,労働基準法38条の3,同法施行規則24条の2の2第2項2号において,「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務」が挙げられている。そして,「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは,①ニーズの把握,ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定,②入出力設計,処理手順の設計等のアプリケーション・システムの設計,機械構成の細部の決定,ソフトウエアの決定等,③システム稼働後のシステムの評価,問題点の発見,その解決のための改善等の業務をいうと解されており,プログラミングについては,その性質上,裁量性の高い業務ではないので,専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解される。営業が専門業務型裁量労働制に含まれないことはもちろんである。
(2) 原告は,被告Bについて,情報処理システムの分析又は設計の業務に携わっており,専門業務型裁量労働制の業務に該当する旨主張する。
 確かに,前記事実関係からすると,被告Bにおいては,C社からの発注を受けて,カスタマイズ業務を中心に職務をしていたということはできる。
 しかしながら,本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは,システム設計というものが,システム全体を設計する技術者にとって,どこから手をつけ,どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからであると解される。しかるに,C社は,下請である原告に対しシステム設計の一部しか発注していないのであり,しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると,下請にて業務に従事する者にとっては,裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性はかなりなくなっていたということができる。また,原告において,被告Bに対し専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務につき未達が生じるほどのノルマを課していたことは,原告がそれを損害として請求していることからも明らかである。さらに,原告は,前記認定のとおり,F部長からC社の業務の掘り起こしをするように指示を受けて,C社を訪問し,もっと発注してほしいという依頼をしており,営業活動にも従事していたということができる(原告は,原告とC社との間で毎月1000時間相当の発注をすることの合意ができていた旨主張するが,目安という程度のものであったことは前記認定のとおりであり,営業活動を不要とするようなものではなかったといえる。)。
 以上からすると,被告Bが行っていた業務は,労働基準法38条の3,同法施行規則24条の2の2第2項2号にいう「情報処理システムの分析又は設計の業務」であったということはできず,専門業務型裁量労働制の要件を満たしていると認めることはできない

 弁護士 中井雅人