残業代を支払わない言い訳 「歩合制」「歩合給」

1 歩合制とは単なる賃金制度

歩合制それ自体は、業績などに応じて支給される賃金制度給料のことです。
多くの労働者はあらかじめ定まった賃金を支給しているところ、歩合給では歩合で賃金を支給しているにすぎません。
労働者性が認められる場合は最低賃金法の適用もあります。
そのため、歩合給という賃金制度そのものに時間外労働の割増賃金(残業代)を免れさせる効果はありません。
歩合給だからといって割増賃金(残業代)請求できないということはありません。
管理監督者(労基法41条2号)、裁量労働時間制みなし労働時間制(労基法38条の2)などの要件を充たしている場合は一部の割増賃金(残業代)支払義務を免れますが、これは歩合給という賃金制度とは別の問題です。

2 計算方法

割増賃金(残業代)の計算の基礎となる「通常の労働時間又は通常の労働日の賃金」の計算方法は労働基準法施行規則に定めれています。

「出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額(労基法施行規則19条1項6号)」

「出来高払い制その他の請負制によって賃金が定められている場合については、時間外の労働に対する時間当たり賃金、すなわち1.0に該当する部分は、すでに基礎となった賃金総額のなかに含められていますので、加給すべき賃金額は、計算額の2割5分以上であれば足りることになります。」(昭23.11.25 基収第3052号)

つまり歩合制の場合の時間労働割増賃金(残業代)計算式は、
((1か月の歩合給÷1か月の総労働時間)×0.25)×時間外労働時間(残業時間)
となります。
※法定労働時間は1日8時間・週40時間以内が原則です。

3 歩合給に割増賃金が含まれているという主張が違法になる場合

「歩合給の額が、上告人らが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、上告人らに対して法三七条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、被上告人は、上告人らに対し、本件請求期間における上告人らの時間外及び深夜の労働について、法三七条及び労働基準法施行規則一九条一項六号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務があることになる。」(最高裁H6.6.13 高知県観光事件)

使用者が、「時間外労働および深夜の割増賃金を含むものとして高率の歩合給を支給していた」などと主張しても、
当該歩合給が、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外および深夜の割増賃金に当たる部分との判別することができないものである場合は、労基法の要求する割増賃金を含むものとはいえず、
そのような使用者による主張は、労働者の割増賃金請求に対して無意味です。
つまり、労働者は割増賃金(残業代)請求をすることができます。
もし、そのような使用者の主張を適法としてしまうと、労働者が残業をしてもしなくても同率の歩合給が支給されることになってしまい、労基法の脱法を許すことになってしまうからです。

弁護士 中井雅人

残業代を支払わない言い訳 まとめ