【解決事例】未払残業代(国際自動車事件類似)について裁判前の交渉で和解成立

 

手続 交渉
事件の種類 未払残業代等の請求
立場 労働者
事案の概要 タクシー会社の乗務員として勤務する労働者の未払残業代請求の交渉。残業部分の賃金を差し引いて支給されていた。

 

大阪府内のタクシー会社に勤めていたタクシードライバーのAさんは、毎月渡される給与明細の中身についてずっと疑問を抱いていました。給与明細に記載されている各項目の金額と支給額の計算が合わないのです。賃金規程のとおりに賃金が支払われているのだろうか、と何度も会社に問い合わせてもなかなか取り合ってもらえないことから、弊事務所に相談にいらっしゃいました。

今回は、Aさん労働者側代理人の弊所弁護士と会社側代理人弁護士との交渉により、裁判をすることなく和解に至りました。解決金の額は、基本給部分及び歩合給部分の未払い残業代全額です。

 

解決のポイント

あなたの会社の給与明細の計算は合っていますか?

Aさんの雇用契約書からは、直ちに上記計算式を導くことはできません

会社側弁護士との交渉を経て、Aさんの会社の賃金の計算式が明らかになりました。

賃金=基本給+歩合給+協定歩合給(水揚げ×歩率-(基本給+時間外手当+深夜手当+歩合給)+時間外手当+深夜手当

というのがAさんの賃金の計算式です。

「+」「-」を打ち消すと、

賃金=水揚げ×歩率

となります。

国際自動車事件最高裁判決に基づく交渉が成立

このように、時間外手当や深夜手当が一見支払われているように見えて実際は差引かれているような賃金体系は、タクシーやトラックなどの交通運輸業界で多く見られます。弊所HPでもお伝えしたとおり、このようにいったん「+残業代」した後、「-残業代」と残業代を差し引くのは違法であるとする最高裁判決が出ています。

Aさんの事案も、この国際自動車事件最高裁判決を前提に交渉が進められ、和解が成立しました。

【当法律事務所記事】残業代請求訴訟(国際自動車事件) 最高裁2020年3月30日判決

残業代請求訴訟(国際自動車事件) 最高裁2020年3月30日判決

残業代の計算の誤りも明らかに

国際自動車事件の論点以外にも、基礎賃金算定の誤りなどがあり、会社が残業代が低く計算していました。

会社が、時間外手当や深夜手当などの残業代を計算するための基礎賃金に含めるべき手当を含めずに計算していたこと、出勤日数を少なく数えていたこと等も明らかになりました。

誤って低く計算されていた残業代は労働者側からの指摘により、会社側が正しく再計算しました。

補論:変形労働時間制は正しく運用されていますか

変形労働時間制は、少なくとも、変形期間中の総所定労働時間は週あたりの平均が法定労働時間である40時間以内でなければなりません。この上限枠は厚生労働省ホームページ等でも掲載されていますが、変形期間が30日であれば171.42時間、変形期間が29日であれば165.71時間となるのが原則です。

月の歴日数

(変形期間の歴日数)

週の法定労働時間 週の法定労働時間
40時間 44時間
31日 177.1時間 194.8時間
30日 171.4時間 188.5時間
29日 165.7時間 182.2時間
28日 160.0時間 176.0時間

そのため、残業時間はこの上限枠に基づいて算定されなければなりません。

月間総労働時間が208時間(26日×8時間)で変形期間の歴日数が30日であれば、残業時間は208時間-171.42時間=36.58時間となります。