勝訴判決 短時間労働者の社会保険加入資格訴訟

私が訴訟代理人を務めた事件を紹介します。

語学学校ベルリッツの外国人英語講師(40分×週35コマ担当 カナダ人男性 在留資格:人文知識・国際業務)が、労働時間の減少を理由に厚生年金保険加入資格を喪失し、これを不服として資格確認請求をしましたが却下され、これに対する審査請求、再審査請求も棄却されたので、却下処分の取消しを求めて提訴したという事案です(東京地方裁判所 平成28年6月17日判決)。

労働実態踏まえ社保加入認める…東京地裁判決 June 18, 2016 by TozenAdmin

結論としては、社会保険の加入資格があった=原告の勝訴でした。
本件は、わかりやすく正確に説明するのがとっても難しいのですが、少しだけ説明を試みたいと思います。
上記URLの記事の中にも出てくるように、「4分の3ルール」を規定した「内かん」と、語学学校に雇用される外国人講師に適用される「課長通知」が適法であることを前提とした勝訴でした。すなわち、「原告の個別の事情」を理由にした勝訴でした。

原告は、「自分と同じような経験をした人の役に立ちたい」という思いから、長い時間をかけて裁判で闘ってきました。
そのため、裁判では「原告の個別の事情」から社会保険加入が認められるべきだという主張だけでなく、「内かん」や「課長通知」がおかしいと主張をしてきました。
つまり、行政のルール自体がおかしいのだと主張してきました。
厚生年金保険法は「適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。」(第9条)としか規定していません。多くの会社は「適用事業所」に当たります(当たらない場合もあります。)。要は、法律の文字だけをみれば、およそ70歳未満の労働者は被保険者なのです。
このように法律に書かれているのに、これに反する取り扱いをするのは、日本国憲法が求めている法治主義に反しますし、憲法84条の租税法律主義(国民が一方的に強制的に負担する「税」などについて法律でちゃんと定めることで好き勝手されないように監視しましょうというもの)に反する、等と主張しました。他にもいろいろ主張しました。

しかし、この主張は認められませんでした。おかしいと思います。
たとえば、現在、いわゆる非正規労働者が労働者全体の40%近くを占めるようになっており、その中で単身の低賃金労働者が増大していると言われています。非正規労働者の多くは「内かん」のいう短時間労働者でしょう。
こうした労働者の社会保険加入を「内かん」によって排除するのだとすると、「生活の安定と福祉の向上」という法の趣旨目的に明らかに反する事態でしょう。
本件は外国人語学学校講師の問題であると同時に、ひろく非正規労働者の問題でもあるのです。
もっとも、本判決は、「内かん」を適切に運用して、「個別の事情」を適切に考慮した点で評価ではきるものだと思います。「内かん」そのものも問題ですが、「内かん」の適切な運用が広がっていくことも重要なのだと思います。

弁護士 中井雅人

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