不当解雇との闘いでは解雇理由証明書が重要~解雇理由証明書に記載されていない理由の追加主張を許さないとした裁判例の分析とともに~

解雇理由証明書の発行は労基法上の義務

労働者は使用者に対し、解雇理由証明書を交付するよう請求することができます。

労働基準法

(退職時等の証明)

第22条1項 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

不当解雇との闘いでは、この解雇理由証明書がとても重要です。

労働事件を専門とする弁護士は、まず解雇理由証明書の記載を確認するでしょうし、

解雇理由証明書が発行されていなければ早期に発行するよう求めるべきだとアドバイスするでしょう。

(弁護士が既に受任していれば早期に解雇理由証明書の発行を求めるでしょう。)

この解雇理由証明書は、解雇理由を具体的に記載する必要があり、例えば、就業規則上の解雇事由に該当するとして解雇がなされた場合には、就業規則の当該条項の内容および同条項に該当する事実関係を証明書に記載しなければならないとされています(平15・10・22基発1022001号。)。

労働局のウェブページ 職時の証明(第22条)・解雇理由の証明(第22条第2項)

解雇理由証明書の活用方法

①当然ではありますが、労働者側としては解雇理由証明書の記載を前提にその後の交渉や裁判の見通しを分析します。

②解雇理由証明書と矛盾するような主張があった場合、それは解雇に理由がないことを基礎づける要素になるでしょう(私見)。

③解雇理由証明書の記載が抽象的であった場合(よくあります)、それも解雇に理由がないことを基礎づける要素になるでしょう(私見)。

④解雇理由証明書に記載された理由以外の解雇理由を、後の訴訟において追加主張することができるか否か(後記裁判例)。

解雇が恣意的になされることを防止するとともに、労働者が解雇を受け入れるか争うかを迅速に判断できるようにすること(解雇を争う場合その判定を行う第三者機関が解雇の有効性を迅速的確に判断できるようにすること)という解雇理由証明書の意義・趣旨を没却させてしまうことになるため、そのような解雇理由の事後的追加は原則として許されないと解するべきです(水町勇一郎『詳解 労働法 第2版』東京大学出版会,2021,990頁参照)。後記裁判例も同様の見解です。

広島高裁令和2年2月26日判決・ジュリスト1579号142頁

一審原告:常勤講師

一審被告:高等学校を設置運営している学校法人

平成23年4月1日:期間1年間とする常勤講師としての労働契約を締結(その後3回更新)

平成27年1月:一審被告→一審原告 同年3月30日をもって労働契約終了する旨の通知(雇止め)

同年3月26日:退職理由証明書の交付

「任用期間満了による退職理由
・業務を遂行する能力が十分でないと認められるため。
・職務命令に対する違反行為を行ったこと等勤務不良のため。
根拠事案
1「クラブ指導においての不適切・不十分な対応による生徒負傷および事後対応トラブル」
2「LHR時に学級生徒への体罰」
3「クラブ部員の窃盗事故についての警察官との不適切な対応」
4「クラブ練習中の部員の負傷(1回目)」
5「クラブ部室および用具管理・部員指導の不徹底」
6「クラブ練習中の部員の負傷(2回目)」
7「授業自習で無届出張」
8「クラブ奨学生に関する中学生及び保護者に対しての不適切な対応によるトラブル」
9「授業未実施(無届自習)」
10「私学適性検査の結果」」

後の裁判:一審被告は、退職理由証明書に記載のない退学生徒への清算金の着服と領収書の偽造行為等の事情を追加主張

広島地裁平成30年10月31日判決:上記追加主張された金員の着服と偽造行為を認定し、雇止めを有効とした。

広島高裁令和2年2月26日判決・ジュリスト1579号142頁↓

「労働基準法22条1項が解雇理由証明書の請求について規定したのは,解雇が労働者に大きな不利益を与えるものであることに鑑み,解雇理由を明示することによって不当解雇を抑制するとともに,労働者に当該解雇の効力を争うか否かの判断の便宜を与える趣旨に出たものと解されるから,解雇理由証明書に記載のなかった事由を使用者において解雇理由として主張することは,原則として許されないというべきである。そして,この理は,平成15年厚労省告示が定める有期労働契約を更新しない場合の更新しない事由についても同様である。もっとも,本来,雇止めが社会通念上相当かどうかについては,当初の有期労働契約締結時から雇止めの時までの全期間における事情を総合的に勘案してされるべきものであるから,更新しない理由に係る証明書に記載されていない事情を使用者が雇止めの理由として主張しても,上記の立法趣旨に反しないと認められる特段の事情があれば,当該主張は認められるというべきである。」

その上で具体的な事案への適用において、

「平成27年3月末日の更新期においては,…被控訴人が本件雇止めの際に控訴人に対して示したその理由は,いずれも,本件労働契約の更新につき法19条柱書き所定の要件の有無の判断において,本件雇止めの有効性を基礎付ける事情としてはさして有力なものということはできず,本件労働契約の更新の申込みを拒絶するにつき客観的に合理的な理由を基礎付ける事情といえないことは明らかである。これに対し,上記現金の着服及び領収証の偽造の事情は,それ以外の事情と異なり,上記の合理的理由といえるかが問題となり得る事情であって,このような事情を雇止めの事由として追加することを認めると,不当な雇止めを抑制し,労働者に当該雇止めの効力を争うか否かの判断の便宜を与えるという上記の立法趣旨に反することになるというべきであるから,本件雇止めとの関係では,前記特段の事情は認められない。」とし、平成27年4月~平成28年3月の更新を認め、その間の賃金額の支払請求を認めた。

もっとも、「平成28年3月末日の更新期においては,…既に,控訴人による前記現金の着服及び領収証の偽造の事実が発覚しており,被控訴人はこれを控訴人に告げていたものと認められるから,同更新期において,被控訴人が本件労働契約の更新を拒絶することに客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められるか(法19条柱書き参照)の判断において,上記現金の着服及び領収証の偽造の事実を考慮することができる。そして,当該事実は,前記私学適性検査の評定が低かったこと,担当する授業を実施せず自習とすることを繰り返したこと,野球部員の指導において不適切又は不十分な対応をしたこと,生徒に体罰を加えたこと,推薦による本件高校への受験勧誘において不適切な対応をしたことが,いずれも,本件労働契約の更新申込みを拒絶する合理的理由等の存在を基礎付ける事情としてさして有力なものということができないのとは異なり,金銭の着服,領収証の偽造のそれぞれが犯罪を構成するものであり,1件ごとの着服金額はそれほど大きなものではないとはいえ,件数も多く,常習的との非難も免れず,控訴人らクラス担任による返金事務が円滑に行えず困難を伴うことを考慮しても,控訴人の教員としての適格性に疑問を生じさせる重大な行為といわざるを得ず,それのみをもって,上記合理的理由等の存在を基礎付ける事情であるというべきである。」とし、平成28年4月1日以降の更新は否定した。

広島高裁判決の簡単な考察

最高裁判決ではなく高裁判決ですから、上記判断が実務上定着するかどうかは未だ不明です。

しかし、高裁判決ではありますから、実務的な影響はあるでしょうし、労働者側弁護士としては積極的に活用するべき裁判例でしょう。

追加主張を許す説と追加主張を許さない説は、学説上は対立があるようですが、

仮に、追加主張を許す説を採用したとしても、

上記高裁判決が述べた追加主張を許さない理由は、解雇が有効か無効か判断する際に、考慮されるべきです。

要するに、解雇理由証明書に記載しなかった理由は、大したことがない理由として取り扱うべき、ということです。

また、上記高裁判決は、「立法趣旨に反しないと認められる特段の事情」という追加主張を許す例外を設定していますが、

上記のとおり、追加主張された理由が、解雇との関係で重大であればあるほど「立法趣旨に反しないと認められる特段の事情」が否定されやすくなるでしょう。

 

弁護士中井雅人

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