残業代を支払わない言い訳 「管理監督者」(名ばかり管理職)

「管理職」=残業代を支払わなくてよい、は間違い

「『管理監督者』なので、残業代を払わなくてよい」
残業代請求の交渉や訴訟をしていて、会社側からこういう反論をされることがあります。
また、会社から単に「管理職」には残業代を支払わないと言われている方もいます。うちの会社は「管理職」には残業代は出ないとあきらめていた方もいました。

2000年代後半頃に「名ばかり管理職」という言葉が登場しました。

「名ばかり管理職」とは、当該労働者の権限、裁量、待遇等の実態に反して、管理職らしい名称を付して労基法41条2号の「管理監督者」として扱い、労基法に従った残業代が支払われていない人のことです。

労働基準法41条2号では「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」には、
同法の労働時間、休憩及び休日に関する規定は、適用しないと規定されています。
この「監督若しくは管理の地位にある者」を略して「管理監督者」と言われています。

本当に労働者が「管理監督者」であれば、上記会社側の主張は正しいです。
しかし、会社側からの「管理監督者」の主張は的外れで苦し紛れの主張であることが多いです。
労働者が「管理監督者」だと認められるハードルは極めて高いのです。

また、仮に「管理監督者」に該当するとしても、深夜に関する規定及び年次有給休暇の規定は適用されますので注意してください。
(管理監督者とされる労働者であっても、深夜割増分の残業代請求はできる。)
(管理監督者とされる労働者であっても、年次有給休暇は行使できる。)

1 労基法41条2号の趣旨

労基法41条2号が管理監督者を適用除外とした趣旨は、
管理監督者は、

①その職務の性質上、雇用主と一体なり、あるいはその意を体して、その権限の一部を行使する関係上、
②自らの労働時間を中心とした労働条件の決定等について相当な程度の裁量権を認められ、
③その地位に見合った相当な待遇を受けている者であるため、強行法規としての労働基準法所定の労働時間等に関する厳格な規制を及ぼす必要がなく、かつ、相当でもない、

という点にあります。

2 行政解釈

管理監督者とは、「一般的には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるものの意であり、名称にとらわれず実態に即して判断すべきものである。」(昭22.9.13発基第17号、昭63.3.14基発第30号)

重要なことは、「名称にとらわれず実態に即して判断」するということです。

3 管理監督者の判断基準

以下①②③などの具体的勤務実態に即して判断されます。
役職の名称は関係ありません!

① 職務内容・権限

職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか
→人事上の決定権限・事実上の影響力、企業経営全般における重要な決定への参画など

② 勤務態様の裁量

勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か
→労働時間管理の有無・内容など労働時間に関する拘束の程度など

③ 賃金処遇

給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか
→一般従業員と比較した優遇の程度、管理職昇進時の処遇の変化など

これら①~③は、そのいずれをも満たす必要があるという意味で、管理監督者の「判断基準」というよりは「要件」に近いものです。

4 こんな人は管理監督者ではない可能性があります

(=残業代請求ができる可能性があります。)
【管理監督者なのに権限がほとんどない】
【管理監督者なのに出勤退勤時間を自分で決めることができない】
【管理監督者なのに賃金等の処遇が一般労働者とほとんど変わらない】

重要なことなのでもう一度、
課長、部長などの社内での「名称」や会社の主観は無関係です。
「取締役工場長」という名称がついているのに、「管理監督者」ではないと判断された裁判例もあるほどです。

裁判例

日本マクドナルド事件・東京地判平成20.1.28労判953号10頁

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail6?id=37801

プレナス(ほっともっと元店長B)事件・大分地判平成29.3.30労判1158号32頁

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=86692

割増賃金制度は、労働者の命と健康を守るとともに、過重労働に対する相応の補償をするためのもの

「管理監督者」としての実質がないのに「管理監督者」とされ、
割増賃金(残業代)の規制のない中で長時間労働を強いられている労働者もいます。

つまり、労働者の命と健康を守るための割増賃金制度(働き過ぎ防止のためのブレーキ)が機能していない状態です。

また、過重労働に対する相応の補償(残業代)も支払われていない状態です。

強調したいのは、過重労働に対する補償(残業代)の問題もありますが、命と健康(労災)に関わる問題です。
心身の健康を害する前に労働弁護士など専門家にご相談ください。

会社に適切な残業代を支払わせることが、過重労働の抑止=命と健康を守ることにつながる可能性があります。

自分は管理監督者ではないのではないだろうか、怪しいなと思ったら労働弁護士にご相談ください。

弁護士 中井雅人

 

残業代を支払わない言い訳 まとめ

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