裁判にかかる時間~平均審理期間を参考に~

【司法統計や状況から判断して回答します】

弁護士をしていると、裁判にどれくらい時間がかかりますか?聞かれることが多いです。
裁判の当事者(または当事者になろうとする者)が自分の事件についてどれくらい時間がかかるのか、
気になるのは当然のことでしょう。

どれくらい時間がかかるか? に対する回答は、
事件の複雑さ、相手の対応(労働事件では会社の対応)などの諸要素によって裁判にかかる時間は変わりますので、
厳密に「○○か月で裁判が終わります」とお答えすることはできません。

しかし、これでは当事者の方は納得されないと思いますので、
司法統計の平均審理期間ではこのくらいになっています、
私の経験上こういう事件の場合はこのくらいになっています、
とお答えしています。
※平均審理期間とは、裁判所が事件を受理した日から終局日までの平均期間のことです。

司法統計とは、文字通り裁判所が発表している裁判についての統計のことです。
中でも「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」というものがわかりやすいので、これをもとに説明しています。
これは司法統計をもとに、裁判を迅速化させることを目的として司法統計とは異なる観点から整理したものです。
以下では最新の2014(平成26)年のものを使用します。

【民事訴訟全体(第1審)の平均審理期間】

民事裁判全体(過払い金等請求は除く)の第1審平均審理期間は、9.2か月でした。
裁判も、労働、交通事故、土地・建物、貸金、請負、医療、知的財産…など様々な種類があります。
比較的早く終わるものもあれば時間がかかるものもあります。
9.2か月というのは、様々な種類の裁判を全部まとめた平均審理期間です。

※(過払い金等請求は除く)とされているのは、
過払い金等請求事件は、他の事件と比べて定型的な処理をするので、審理期間が短くなり、
統計に含めると全体の数値を極端に下げてしまうからです。

【労働関係訴訟(第1審)の平均審理期間】

労働関係訴訟(第1審)平均審理期間は、14.3か月(=1年2~3か月)でした。
労働関係訴訟といっても、解雇、残業代請求、パワハラ・セクハラ、労災、退職金請求など様々な種類があります。
比較的早く終わるものもあれば時間がかかるものもあります。
14.3か月(=1年2~3か月)というのは、様々な種類の労働関係訴訟を全部まとめた平均審理期間です。

このように民事裁判全体よりも長くなる原因は次の①~③だと思われます。
①労働事件の専門性の高さ
②その専門性の高さ故に代理人の選任率が高い
→民事裁判全体では原告被告双方に代理人が選任されるのが42.6%であるのに対し。労働関係訴訟の場合81.2%になります。
③証人調べ実施率及び平均証人数が多い
→労働事件は立証しなければならない事実が多い場合、客観証拠が不十分な場合があるからだと思われます。
また、労使間の対立が前提にあるため、労使双方ともやれることはやるという考えもあると思われます。
証人尋問の有無や証人の人数によっても審理期間は変化します。

※労働審判については↓の「労働審判とは~その特徴をご説明します~」をご覧ください。

労働審判とは~その特徴をご説明します~

【裁判の終局区分】

終局区分(裁判の終わり方)にもいろいろあります。
判決、和解、取下げなどがあります。

このうち和解の割合についてみておきましょう。
民事裁判全体(過払い金等請求は除く)では、23.0%です。
これに対し、労働関係訴訟では、53.7%です。

先に述べました審理期間は、和解の有無でも変化するでしょう。
和解で終局すれば、裁判は早く終わります。

【上訴率・上訴事件割合】

日本の裁判所は三審制を採用しています。
一般的には、一審が地方裁判所、二審(控訴審)が高等裁判所、三審(上告審)が最高裁判所です。
民事裁判全体(過払い金等請求は除く)では、上訴率34.5%、上訴事件割合11.2%です。
これに対し、労働関係訴訟では、上訴率59.3%、上訴事件割合は19.0%です。

労働関係訴訟の上訴率・上訴事件割合が高いのは、和解率の高さも反映していますが、
和解しない事件については労使双方が徹底的に争う場合が多いからだと思われます。

※上訴率は、判決で終局した事件の中で上訴がされた割合を指します。
※上訴事件割合は、全既済事件の中で上訴された事件の割合を指します。

弁護士 中井雅人