仕事上のミスを理由とする損害賠償(ノルマ 買取 自腹 自爆営業 など)

最近、ツイッター(Twitter)上で、労働者が「恵方巻」のノルマを達成できなかったら買い取らされるといういわゆる「自爆営業」が話題になっています。
↓NHKも1月26日 14時33分にこの問題を報道しています。↓
「恵方巻」の販売ノルマ アルバイトがネット上で悲鳴
その後、その他メディアでも多く取り上げられています。

【ツイート(tweet)の例】

「恵方巻き!ノルマ5個でよかった。ケーキの時みたいに30個とかやめてほしいし。また徹夜か〜」
「恵方巻ノルマ100だそーです。1人で100。死ぬ」
「恵方巻ノルマ12本て…お願いできる人なんて限られてるし何本買えばいいんだ」
「恵方巻きの予約150本超えってどうしたらいいのか年末からずっと頭を抱えておる…。
家族で30本(3日間3食✕3)として、常連さんに声かけて50本くらい…?あとは配るか…?」

ざっと見たところ10本を超えるノルマは、珍しくないようです。
ツイートで挙げられているコンビニは、1社だけではなく、複数の大手コンビニのようです。

「私もスーパー勤務でノルマ20匹ですよ うちはあまりウナギ食べないので人に勧めるの抵抗あります。
Xmasケーキ、ヌーヴォワイン、恵方巻きなどもやります。
本来の節句祝いや食事に込めた願いが見失われそうで好きではないですね」
と、恵方巻以外にもたくさんあるようです。
しかもコンビニだけではなくスーパーでもノルマが課せられているようです。

【法的にノルマ分の商品を買い取る義務はない!!】

あたりまえかもしれませんが、ノルマを達成できない労働者に対し、ノルマ分の商品を強制的に購入させるのは違法です。
労働者には、使用者から商品を購入しなければならない義務はないからです。
常識的に考えてあたり前のことなのですが、
使用者の指揮命令下に置かれると義務がないことに気づきにくい、頭ではわかっていても断れないことも多いでしょう。
家族・友人・知人からノルマで購入しているという話を聞いた方は、
ぜひ法的にノルマ分の商品を買い取る義務はないことを広めてください。

ひとりでは断りにくいという方は、労働組合が有効です。
職場に労働組合がなくても、一人でも入れる合同労組やユニオンがあります。
当事務所が顧問をしている労組を紹介することも可能です。

【賃金からの天引きは法律違反です】

NHKの報道によれば、ノルマが達成できなかった数万円分を給料から天引きされたという事例もあるようです。

労基法では、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」(同法24条1項本文)と規定されています。
賃金全額払いの原則と言われています。
シンプルな条文ですが、労基法の中でも極めて重要な条文です。
この規定には、使用者が労働者に対して有する債権(損害賠償請求権など)をもって労働者の賃金債権と一方的に相殺することを禁止することも含まれています。
したがって、賃金から労働者に対する損害賠償額などを天引きすることは違法です。

このように仮に、労働者が損害賠償責任を負うとしても、ノルマが達成できなかったことによる損害金を給料から天引きするのは違法なのです。

こうした明確な法律違反である天引きは、他の業界でも横行しているようです。
たとえば、私が担当した事件では、配送業のトラック運転手が誤配送したために給料から違約金が天引きされましたが、
当然、裁判ではそのような天引きは違法なので天引き分の給料を支払えという判決が出ました。

意外と知られていない権利かもしれませんが、
賃金全額払いの原則は労働者の重要な権利です。しっかりと行使しましょう。

【通常の労務提供をしていれば弁償義務はない!!】

先ほど、「仮に、労働者が損害賠償責任を負うとしても」と記載しましたが、
そもそも、通常の労務提供をしていて(普通に働いていて)、労働者が損害賠償義務を負うことはありません。
少なくとも、○○本のノルマ分の恵方巻を販売できなかった、○○個のノルマ分のクリスマスケーキを販売できなかった、
という理由で労働者が損害賠償責任を負うことはありません。
労働者には、ノルマを達成できないことについて損害賠償責任の前提となる「過失」がないからです。
なお、軽い「過失」があったとしても、人間はロボットではないし、会社は労働者によて利益を上げているのですから、一定確率で発生するミスの場合は労働者が損害賠償責任を負うことはありません。
参考:↓「労働者の損害賠償責任における責任制限」↓
https://www.ak-osaka.org/%E5%8A%B4%E5%83%8D%E5%95%8F%E9%A1%8C/324/

弁護士 中井雅人