1 明確な勝訴判決!
2020(令和2)年3月30日に、国際自動車というタクシー会社に対する残業代請求訴訟について最高裁判決がありました。
裁判所web page 国際自動車事件第2次上告審判決(最一小令和2年3月30日 民集第74巻3号549頁)
暁法律事務所(東京)の指宿昭一弁護士が担当している事件です。
↓指宿弁護士の本判決に対する評価↓
↓裁判所web page 国際自動車事件事件第1次上告審判決(最三小平成29年2月28日判決)に関する当事務所の記事↓
2 最高裁判決の要点
⑴ 労基法37条の趣旨
「労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される」
(静岡県教職委事件:最高裁昭和44年(行ツ)第26号同47年4月6日第一小法廷判決・民集26巻3号397頁,
康心会事件:最高裁平成28年(受)第222号同29年7月7日第二小法廷判決・裁判集民事256号31頁,
日本ケミカル事件:最高裁同年(受)第842号同30年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事259号77頁参照)。
⑵ 割増賃金の支払方法
「割増賃金の算定方法は,労働基準法37条等に具体的に定められているが,労働基準法37条は,労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され,使用者が,労働契約に基づき,労働基準法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこと自体が直ちに同条に反するものではない」
(国際自動車事件第1次上告審判決,
康心会事件:前掲最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決,
日本ケミカル事件:前掲最高裁同30年7月19日第一小法廷判決参照)
⑶ 「その前提として」判別可能性
「使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ,
その前提として,労働契約における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である」
(高知県観光事件:最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,
テックジャパン事件:最高裁同21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁,
国際自動車事件第1次上告審判決,
康心会事件:前掲最高裁同29年7月7日第二小法廷判決参照)
⑷ 対価性
「使用者が、労働契約に基づく特定の手当を支払うことにより労働基準法37条の定める割増賃金を支払っていると主張している場合において、上記の判別をすることができるというためには、当該手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていることを要するところ、当該手当がそのような趣旨で支払われるものとされているか否かは、当該労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきであり(日本ケミカル事件:前掲最高裁平成30年7月19日第一小法廷判決参照)、その判断に際しては、当該手当の名称や算定方法だけでなく、…同条の趣旨を踏まえ、当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである。」
⑸ 本件事案への適用(あてはめ)
★本件賃金の仕組み概略
賃金=基本給+歩合給(1)+歩合給(2)+割増金
歩合給(1)=対象額A-{割増金(深夜手当,残業手当及び公出手当の合計)+交通費}
対象額A=(所定内税抜揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出税抜揚高-公出基礎控除額)×0.62
歩合給(2)=(所定内税抜揚高-34万1000円)×0.05
賃金=基本給+対象額A-{割増金(深夜手当,残業手当及び公出手当の合計)+交通費}+割増金+歩合給(2)
割増金に焦点を絞ってより簡略化すると、
賃金:基本給+(対象額A-割増金)+割増金
⇒割増金の額がそのまま歩合給(1)の減額につながるという仕組み
歩合給(1)・歩合給(2)=出来高払制の賃金
=揚高に一定の比率を乗ずることなどにより,揚高から一定の経費や使用者の留保分に相当する額を差し引いたものを労働者に分配する賃金
★労基法37条の趣旨に沿うものとはいい難い
上記賃金の仕組みについて「割増金の額がそのまま歩合給(1)の減額につながるという仕組み」だと評価
=「当該揚高を得るに当たり生ずる割増賃金をその経費とみた上で,その全額をタクシー乗務員に負担させているに等しい」
⇒「時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする」労基法37条の趣旨に反する。
★労基法37条の定める割増賃金の本質から逸脱
通常の労働時間の賃金=歩合給(1)=対象額A-{割増金(深夜手当,残業手当及び公出手当の合計)+交通費}
→歩合給(1)が0円となる場合は、割増賃金の算出の前提となる「通常の労働時間の賃金」は0円なのに、割増賃金のみ全額支払われることになる。
⇒労働基準法37条の定める割増賃金の本質から逸脱
★本来歩合給として支払うべき賃金を割増賃金に置き換えている=残業代不払い
「結局、本件賃金規則の定める上記の仕組みは、その実質において、出来高払制の下で元来は歩合給(1)として支払うことが予定されている賃金を、時間外労働等がある場合には、その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするものというべきである(このことは、歩合給対応部分の割増金のほか、同じく対象額Aから控除される基本給対応部分の割増金についても同様である。)。」
=形式的に支払われているように見える「割増金」には実質的には「通常の労働時間の賃金」(歩合給(1))が相当程度含まれている。
⇒時間外労働等に対する対価性の否定
→判別可能性も否定
★結論
会社の労働者らに対する割増金の支払により、「労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたということはできない。」
3 関連訴訟
弁護団声明 トールエクスプレスジャパン事件(大阪地裁2019.3.20判決)
トールエクスプレスジャパン賃金規則の問題点