辞職・合意退職・解雇 労働契約の終了類型ごとの法的対処方法の違い

労働契約の終了類型

辞職(労働者による労働契約の一方的解約)

以下のとおり、民法は、労働者・使用者の各当事者について規定しています。

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

合意退職

労働者による合意解約の申込の場合

「今月いっぱいで辞めさせていただきます」(全自交広島タクシー支部事件・広島地判昭和60.4.25労判487号84頁)

「会社を辞めたる」(株式会社大通事件・大阪地判平成10.7.17労判750号79頁)

「どうしても懲戒解雇と自主退職のどちらかを選ばなければならないのなら……依願退職ということでお願いします」(学校法人大谷学園事件・横浜地判平成23.7.26労判1035号88頁)

使用者からの合意解約の申込に対する承諾の場合

「承諾」があったか否かは、

承諾の権限を有する者によってなされているか?

会社内部の一定の手続を要すると就業規則等によって定められている場合、そのような手続を履践しているか?

を検討しなければなりません。

解雇(使用者による労働契約の一方的解約)

労働基準法は、上記民法627条の規定を修正しています。

(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

撤回の可否

辞職(労働者による労働契約の一方的解約)の場合

辞職(解約)の通知が使用者に到達した時点でその効力が生じます。

→したがって、辞職(解約)の通知が使用者に到達した後は、撤回できません(民法540条2項参照)。

ただし、使用者の同意に基づき「撤回」(辞職がなかったことの労使合意)することはできます。

合意退職の場合

労働者による合意解約の申込の場合

使用者の承諾の意思表示がなされるまでは、信義則に反する等の特段の事情がない限り自由に撤回することができます。

「労働者による雇用契約の合意解約の申込は、これに対する使用者の承諾の意思表示が労働者に到達し、雇用契約終了の効果が発生するまでは、使用者に不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情がない限り、労働者においてこれを撤回することができると解するのが相当である。」(白頭学院事件・大阪地判平9.8.29労判725号40頁)

使用者からの合意解約の申込に対する承諾の場合

使用者への辞職(解約)意思表示の到達により解約合意が成立し(民522条1項)、到達後は撤回することができません。

退職(辞職・合意解約)の意思表示の取消・無効

心裡留保(民法93条)

錯誤(民法95条)

詐欺(民法96条)

強迫(民法96条)

公序良俗違反(民法90条)

自由な意思表示に基づく合意と合理的な理由が客観的に認められない場合

合意解約の成立を否定される場合があります(TRUST事件・東京地立川支判平成29.1.31労判1156号11頁。)。

退職勧奨と解雇

解雇とは、上記のとおり、使用者による労働契約の一方的解約です。

退職勧奨とは、文字どおり、使用者が労働者に対し、退職を勧奨することです。

もう少し詳しく言えば、使用者が労働者に対し、上記の「辞職」または「合意解約」の申込みもしくは承諾を促し、退職を勧奨をすることです。

退職勧奨に応じなければ、解雇をするということが明示または黙示に示されている場合も少なくありませんが、

法的には解雇とは全く異なります(シチュエーションも相まって勘違いされている方が意外と多いです。)。

労働者は、退職勧奨に応じる義務はありませんし、どのよに回答をするか自由です(質問されることが意外と多いです。)。

他方、使用者も、退職勧奨をするのは自由です。

事案によっては、使用者が合理的な退職条件を提示している場合もあり得ますので注意を要します。

なお、社会通念上の相当性を欠く退職強要は、不法行為として損害賠償請求の対象になり得ます。

https://www.ak-osaka.org/column/25850/

不当解雇との闘いでは解雇理由証明書が重要~解雇理由証明書に記載されていない理由の追加主張を許さないとした裁判例の分析とともに~

https://www.ak-osaka.org/unfair_dismissal/

不当解雇