手続 | 労働審判手続申立 |
事件の種類 | 地位確認請求(雇止め無効)・賃金請求(バックペイ) |
立場 | 労働者(定年後再雇用) |
事案の概要 | Aさんは、無期雇用の医療事務職に従事してきましたが、会社の定年制により、60歳で有期雇用の嘱託職員となりました。
会社は、60歳で定年となる定年制度と、65歳までの雇用継続制度を採用しています。しかし、会社は、具体的理由を述べることなく、2年目の有期労働契約を更新せず、雇止めとしました。 |
和解までの経緯
Aさんは、雇用契約終了(雇止め)の予告通知の交付から約1か月後に法律相談にいらっしゃいました。
当職が受任後、会社とのやり取りを経たのち、雇止めから約2か月後に労働審判の申立をおこないました。
雇止めから約4か月後、初回の労働審判手続期日にて、雇用契約終了の確認をし、会社からAさんへ解決金を支払う和解が成立しました。
本件の特徴
会社は、60歳で定年となる定年制度と、65歳までの雇用継続制度を採用していました。
2025年にも改正された高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の趣旨を踏まえれば、継続雇用後の高年齢者の雇用継続の期待利益は、特段な事情がない限り肯定されると解されるべきです。Aさんも、嘱託職員として少なくとも65歳までは雇用されるであろうと当然思っていました。このことは法の趣旨や会社の制度設計から、なんら不思議ではない当然の考えです。
労働契約法19条は次のとおり規定しています。
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
本件では、
Ⓐ有期労働契約更新の合理的期待があること(労契法19条2号)
Ⓑ雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこと(労契法19条本文)
からAさんの雇止めが無効だと主張しました。
Ⓐについては、65歳までの継続雇用の提供という高年法の趣旨を踏まえれば、継続雇用後の高年齢者の雇用継続の期待利益は特段の事情がない限り肯定されると解すべきです(土田道夫『労働契約法 第2版』有斐閣,2016年,648頁参照)。労働審判手続期日において、会社は、特段の事情を主張しませんでした。
Ⓑについては、会社は後づけの理由を縷々述べてきましたが、いずれも証拠がなかったり、雇止めに値するほどの出来事はありませんでした。
そこで、労働審判委員会(≒裁判所)は、Ⓐ更新の合理的期待はある、Ⓑ客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないという心証を開示し、解決金額等の和解条件の協議に入りました。
協議の結果、Aさんは勝利的評価できる和解を得ました。
Aさんは、和解条項に基づき当該会社を合意退職し、現在は同業他社で「正社員」として長年培ってきたその手腕を発揮しておられます。少子高齢化社会といわれる現代において、働くことができるときまで働きたいという労働者の意思や尊厳の尊重、そうした労働者が安心して働くことができる環境整備が重要であると益々感じた1件でした。
労働審判申立による解決事例
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・・・同じく労働審判で早期解決した事例です。
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